2010年度 高エネルギー物理学奨励賞受賞者を決定しました。

 高エネルギー委員会の委託を受けた6名の選考委員は、7月から9月にかけて候補6論文を査読し、 3回の会議(7月30日、8月26日、9月9日)を経て、全員一致で、

内山 雄祐 氏(東大理)
栗本 佳典 氏(京大理)

の2名を選考しました。 ( )内は学位取得時の所属。受賞者のお二人に、心よりお祝いを申し上げます。            

総評

 今回対象のほとんどの論文は、学位論文として質の高いものであった。記述も優れており、 バックグラウンドや系統誤差の評価などの堅実な作業もなされている。今回評価を分けたのは、目的の理解と目標の設定の違いであった。 当初、指導教員によって課題が与えられたにしても、実験の目標を深く理解し、自分が何を詰めるのかという目標をしっかり設定することが、 意欲の差異を生み、結果の良否も左右する。 比較的小規模な実験では、候補者は全てに精通していることが必要であり、かつそれが比較的に容易でもあることから、 受賞に有利と言われている。 しかし、すでに建設が終了した大規模実験においても、目標を鋭く設定し最良の結果を得ようとすることによって、 その弱点を補えるはずである。大規模実験が高エネルギー分野の研究者養成で量的に大きな役割を担っていることに留意し、 関係者の一層の奮起を要請したい。 全般的に、論文構成、記述などは優れていた。 ただ、いくつかの論文で、挿入された文字が余りにも小さく判別出来ない図や表がいくつかあった。 図や表は実験論文ではもっとも重要な情報といっても過言ではない。 又、いくつかの論文で英語力不足も見られた。国際化が著しい中で不安を感じる。 今後、これら、図表と英語力、の一層の改善を求めたい。

受賞論文の評価

内山 雄祐 (うちやま ゆうすけ)
Analysis of the First MEG Physics Data to Search for the Decay μ+ → e+γ

 この論文はPSIで実施されているMEG実験の最初の物理データー(2008年取得)を解析したものである。 得られた結果は、これまでのリミットに迫るものである。 物理の目的、実験方法、測定器の較正、解析手法などを深く理解して、それらを詳しく的確に記述している。 論文の体裁としては、全体の構成がきちんとしていて判り易く、英文も読み易く、参考文献の上げ方も適切であり、 MEG実験での将来の展望もきちんと纏められている。論文の完成度は高い。長期間にわたる実験への集中力が、 ドリフトチェンバーの放電の多発によって当初ランの感度を大きく損なうことになった中でも、 高感度な結果を出す原動力となったと推測される。目的の深い理解、明確な目標設定の大切さを改めて知らしめている。 以上の理由により高エネルギー物理学奨励賞候補に値すると判断した。

栗本 佳典 (くりもと よしのり)
Measurement of Neutral Current Neutral Pion Production on Carbon in a Few-GeV Neutrino Beam

 この論文はFermilab で行われた SciBooNE 実験において得られた中性カレント反応によるπ0生成を解析したものである。 その反応断面積を10%の精度で定め、π0 の運動量と角度の分布を求め、 それらが MC シミュレーションと無矛盾であることを示した。これよって、 T2K 実験による電子ニュートリノ発現事象解析の基礎データが提供され、更に将来の実験に向けての準備がなされた。 比較的小さな実験であることを反映して、実験の目的、実験方法、検出器などを良く理解しており、 自身が中心となって解析したことが良く分かる内容である。データーとMCとの詳細な比較検討などで示されている深い理解、 緻密な検討を高く評価する。また、将来の CP非保存実験に向けての精密化の要請と、 その要請に応えるための次の基礎実験計画についての記述も明解である。 博士論文としても、研究論文としても、レベルが高い。 以上の理由により高エネルギー物理学奨励賞候補に値すると判断した。


2010年9月25日
2010年度高エネルギー物理学奨励賞選考委員会
稲垣隆雄、今里 純、大島隆義、萩原 薫、 森 正樹、山口誠哉 (あいうえお順)

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