2013年度 高エネルギー物理学奨励賞受賞者を決定しました。

 高エネルギー委員会の委託を受けた6名の選考委員は、7月から9月にかけ3回のTV会議を開催し 候補11論文を詳細かつ慎重に審査した結果、

丸藤 亜寿紗氏 (東北大学)
今野 智之氏 (東京工業大学)
廣瀬 穣氏 (大阪大学)

の3名を選考しました。 ( )内は学位取得時の所属。受賞されたお三方に、心よりお祝いを申し上げます。            

総評

今年度の応募論文は11編、全て博士学位論文であり、著者が牽引者となって投稿した参考論文の添付もあった。力作ぞろいで、応募者各位、並びに推薦をしてくださった指導教員にお礼を申し上げる。
トピックスは、コライダー実験、ニュートリノ物理、二重β崩壊、レプトン希崩壊、重力場中の束縛量子状態の測定、とバラエティに富んでいた。その規模は様々であるものの、多くが国際共同実験をベースにしたものであった。
審査委員会は、応募者が共同研究の中でどのように寄与をしたか、またグループの成果を当事者として自分のものとしているかを重視した。それぞれの実験計画の進行のフェーズによって、若手活動の力点の置かれ方が、検出器の建設、立ち上げ、データ収集、物理データ解析等、多種多様に分かれるのは自然である。その中で若手が自分の役割を位置づけ、最前線に居る立場から実験全体の記述とともに、自身のアクティビティ・貢献を、熱意を持って記述(しようと)している論文を期待した。十分にこの期待に応える論文がある一方、全体の概略を要領よくまとめてあるが、自身の寄与の記述のわかり易さの点で今一つ物足りないものが散見された。応募論文には、従来の高エネルギー分野ではなじみの薄かった手法、測定器要素の開発、あるいは新たな解析手法にチャレンジした内容も見られた。いずれも、それらの新しいアプローチが素粒子物理の進展につながる展望、あるいは高エネルギー実験に与えるインパクトについて、十分に論じられているかどうかに着目した。
最終的には、個々の評価項目のみならず、論文としての完成度を加味した観点から優れている論文を選考した。

受賞論文の内容

丸藤 亜寿紗 (がんどう あずさ)
First Results of Neutrinoless Double Beta Decay Search with KamLAND-Zen

 KamLAND-Zenによる、136Xeのニュートリノを伴わない2重β崩壊探索の最初の結果である。
丸藤さんは、液体シンチレーターの使用により、KamLANDの二重β崩壊に感度のあるKamLAND-Zen への改修を推進し、液体シンチレーターの開発、Xeを含んだ液体シンチレーター用極薄バルーンの強度試験/製作、測定実験からデータ解析に至る一連の過程の中心を担って活躍し、このプロジェクトを成功に導いた。その結果、136Xeに対しニュートリノを伴う2重β崩壊の半減期を世界最高精度で測定し、さらにニュートリノを伴わない2重β崩壊の高感度探索により、ニュートリノのマヨラナ性に対し、世界トップレベルの制約を与えた。また、背景事象に関しての包括的考察は、将来の感度向上への指針を与えている。
これらをまとめた博士論文は理論的背景、検出装置、解析手法に至るまで丁寧に記述されており、筆者がそれらの過程に主体的に関わって実験を牽引していた様子が見て取れる。論文は理解し易く書かれており,完成度の高いものである。

今野 智之 (こんの ともゆき)
Measurement of reactor anti-neutrino disappearance using the Double Chooz detector

 Double Chooz実験において、原子炉からの反電子ニュートリノ消滅の精密測定によりニュートリノθ13混合角の測定に成功した。
今野君は、実験のオンラインデータ収集システムの開発・建設と測定開始後のデータ解析に貢献した。彼が中心となって行ったデータ収集システムを制御するオンライン制御・モニターシステムの開発により、稼働効率の高いデータ収集体制が実現された。データの解析では検出器由来のノイズを除去する手法を開発し、また系統誤差の主たる原因となる中性子反応に由来する系統誤差の分析・評価を行った。それらの結果に基づいてニュートリノ振動解析を行い、世界的に競われているニュートリノ混合角θ13の測定で満足できる精度の結果を得た。
博士論文にはニュートリノ振動に絡む物理的動機や歴史的経緯から、検出器の設計、データ解析の実際と注意点につき、丁寧に説得力をもって記述されている。

廣瀬 穣 (ひろせ みのる)
Measurement of the top quark pair production cross section with √s=7TeV of pp collisions at LHC with b-tagging in the dilepton final state with the ATLAS detector

 LHC-ATLASで、ダイレプトン終状態に対してbクオーク同定を行い、純度の高いトップクオーク対のサンプルを得て、トップ対生成断面積の精密測定にチャレンジした実験である。
現在のATLAS実験の統計量ではもはやその統計誤差は無視できるほど小さく、測定精度の決定要因は系統誤差にある。系統誤差の大きな要素であるb-jet検出効率の測定に新たな方法を導入・確立し、検出効率の不定性に起因する誤差が抑制され、最終的に系統誤差8%以下の高精度データを得た。これはATLAS実験におけるダイレプトン終状態を用いた最高精度の測定である。QCDに基づくPDFを用いてNNLOの精度での標準理論の予言との比較を行い、結果は標準理論の予言と無矛盾であった。
博士論文には、主題とする物理の背景や歴史的経緯、自らが中心となって行ったb-tagの関連の詳細とトップ対生成断面積の導出、今後の展望が的確に記述されている。


2013年11月21日
2013年度高エネルギー物理学奨励賞選考委員会
植松恒夫 (京都大)、久野良孝 (大阪大)、佐藤康太郎(KEK)、
鈴木史郎(佐賀大)、田島宏康 (名古屋大)、田村詔生(新潟大)

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