平成21年11月29日
内閣総理大臣
鳩山由起夫 殿
鳩山民主党内閣の政策集 (INDEX2009)には、「イノベーションを促す基礎研究成果の実用化環境の整備」と「科学技術人材の育成強化」が高らかに唱われています。さらには、「素粒子物理学や再生医療等の巨額な予算を要する基礎科学研究分野において今後もトップランナーの地位を維持していくためにも、世界的な研究拠点となることを目指して、欧米やアジア諸国との連携強化に積極的に取り組んでいきます。」と約束されています。民主党が明確に描いた科学振興、科学人材養成のビジョンを見て、我々、基礎物理学の研究者を含め、多くの科学者が新政権の科学技術政策に大いに期待しました。
しかしながら、「科学振興、科学人材養成」事業について、事業仕分け作業グループがきわめて短い時間的制限の中で出さざるを得なかった今回の結論は、民主党自身のビジョンとまったく反するものと危惧します。高エネルギー加速器研究機構のBファクトリー(小林誠・益川敏英両氏に2008年ノーベル物理学賞をもたらした高エネルギー粒子加速器)、東京大学のスーパーカミオカンデ(小柴昌俊氏の2002年ノーベル物理学賞で有名なニュートリノ実験施設)など、我が国が世界に誇る世界最先端科学プロジェクトを支えてきた大学の基盤経費である「国立大学法人運営費交付金(特別教育研究経費)」ですら「縮減」の危機です。これらの科学関連予算の性急な削減は、日本が長年の積み上げで確保しつつあるトップランナーとしての地位を失うだけでなく、人材、ノウハウの流出など早期の回復が困難な基盤自体の地盤沈下を引き起こすと強く懸念されます。我々は、科学者コミュニティーの一員であるとともに、現政権に期待する国民のひとりとして、今回の仕分け作業グループの結論に賛成できません。
内閣総理大臣として、我が国の科学の将来を総合的に判断され、我が国の世界最先端科学プロジェクトの基盤経費である「国立大学法人運営費交付金(特別教育研究経費)」のいっそうの拡充を結論されることを切に希望いたします。
高エネルギー委員会、核物理委員会、核理論委員会
高エネルギー委員会委員
東京大学大学院理学系研究科 教授 相原 博昭 (委員長)
京都大学大学院理学研究科 准教授 市川 温子
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 教授 徳宿 克夫
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 准教授 後田 裕
東京工業大学大学院理工学研究科 准教授 久世 正弘
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 教授 堺井 義秀
大阪大学大学院理学研究科 准教授 花垣 和則
東京大学素粒子物理国際研究センター 准教授 山下 了
東北大学大学院理学研究科 教授 山本 均
高エネルギー加速器研究機構加速器研究施設 教授 横谷 馨
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 教授 岡田 安弘
(高エネルギー委員会は、粒子加速器を使った素粒子物理学研究に携わる国公私立大学、全国大学共同利用研究機関、独立行政法人、民間企業等の研究者の全国組織である高エネルギー物理学研究者会議の代表者組織です。会員数約800名)
核物理委員会委員
東京大学大学院理学系研究科 教授 酒井 英行 (委員長)
京都大学大学院理学研究科 教授 永江 知文 (副委員長)
理化学研究所仁科加速器センター 主任研究員 櫻井 博儀
大阪大学核物理研究センター 教授 中野 貴志
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 教授 齊藤 直人
大強度陽子加速器施設(J-PARC)センター長 永宮 正治
京都大学大学院理学研究科 教授 今井 憲一
東京工業大学大学院理学研究科 教授 旭 耕一郎
東北大学大学院理学研究科 教授 清水 肇
東北大学大学院理学研究科 教授 田村 裕和
東京大学大学院理学系研究科 教授 下浦 享
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 教授 田中 万博
九州大学大学院理学研究院 教授 野呂 哲夫
大阪大学核物理研究センター長 教授 岸本 忠史
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所長 教授 西川 公一郎
理化学研究所仁科加速器研究センター長 延與 秀人
(核物理委員会は、実験的に原子核物理学の研究を進める国公私立大学、全国大学共同利用研究機関、独立行政法人、民間企業等の研究者の全国組織である核物理談話会の代表者組織です。会員数約650名)
核理論委員会委員
東京大学大学院理学系研究科 教授 大塚 孝治 (委員長)
東京工業大学大学院理学研究科長 教授 岡 真
東京大学大学院理学系研究科 教授 初田 哲男
京都大学大学院理学研究科 教授 国広 悌二
大阪大学核物理研究センター 准教授 保坂 淳
京都大学大学院理学研究科 准教授 延與 佳子
理化学研究所仁科加速器センター 准主任研究員 中務 孝
東北大学大学院理学研究科 准教授 萩野 浩一
京都大学基礎物理学研究所 教授 大西 明
筑波大学大学院数理物質科学研究科 教授 矢花 一浩
(核理論委員会は、理論的に原子核物理学の研究を進める国公私立大学、全国大学共同利用研究機関、独立行政法人、民間企業等の研究者の全国組織である核理論懇談会の代表者組織です。会員数約400名)
民主党政策集 INDEX2009からの抜粋
「イノベーションを促す基礎研究成果の実用化環境の整備」
2008年の169回通常国会で超党派で成立させた研究開発力強化法の趣旨を踏まえ、今後とも科学技術を一層発展させ、その成果をイノベーション(技術革新)につなげていきます。
産学官が協力し、新しい科学技術を社会・産業で活用できるよう、規制の見直しや社会インフラ整備などを推進する「科学技術戦略本部(仮称)」を、現在の総合科学技術会議を改組して内閣総理大臣のもとに設置します。同戦略本部では、科学技術政策の基本戦略並びに予算方針を策定し、省庁横断的な研究プロジェクトや基礎研究と実用化の一体的な推進を図り、プロジェクトの評価を国会に報告します。
また、素粒子物理学や再生医療等の巨額な予算を要する基礎科学研究分野において今後もトップランナーの地位を維持していくためにも、世界的な研究拠点となることを目指して、欧米やアジア諸国との連携強化に積極的に取り組んでいきます。
「科学技術人材の育成強化」
スーパーサイエンスハイスクール(科学技術・理数教育を重点的に行う学校)を拡充するとともに、科学の面白さを子どもたちに実感させるため、産業界の協力を得て、サイエンスキャンプ(研究所などでの実験体験など)や研究者の小中学校への派遣などを行います。
研究者奨励金制度を創設するとともに、国内の優れた研究プロジェクトへの支援を強化します。また、研究者ビザの拡充など優れた外国人研究者がわが国に集まる環境をつくります。