第 18 回(2024 年) 日本物理学会若手奨励賞受賞者を決定しました。


音野 瑛俊氏 (九州大学 先端素粒子物理研究センター)
清水 信宏氏 (千葉大学 ハドロン宇宙国際センター)
Christophe Bronner氏 (東京大学 宇宙線研究所)

の3名を選考しました。
受賞されたお三方に、心よりお祝いを申し上げます。            


受賞論文の講評

音野 瑛俊氏 (九州大学 先端素粒子物理研究センター)
"The tracking detector of the FASER experiment"
Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., A 1034 (2022) 166825

 FASER 実験は ATLAS 実験の衝突点下流 480m に検出器を設置することにより、暗黒物質の候補でもある比較的軽い新粒子の探索と高エネルギーニュートリノ検出を目指した実験である。本論文は、FASER 実験におけるシリコン半導体飛跡検出器 (SCT,SemiConductor Tracker) の詳細を記したものである。申請者は、ATLAS 実験のスペアモジュールを活用することを提案し、FASER 実験での SCT 検出器の設計、建設、運用までの一連の作業を責任者として主導した。本論文には、SCT 検出器とそれに関連する構造体、読み出し回路、冷却装置などのインストール、さらにはキャリブレーションを含む性能評価の解析も含めて丁寧に記述されており、検出器開発と実装の様子が細かく知れる。他実験からの検出器の転用といっても簡単ではなく、転用先で有効な性能を発揮するためには様々なことが必要である。素粒子実験を支えるハードウエアにおける活躍として高く評価したい。以上より、本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断した。

清水 信宏氏 (千葉大学 ハドロン宇宙国際センター)
"First search for KL→π0γ"
Phys. Rev. D 102, 051103(R) (2020)

 本論文は、J-PARC の KOTO 実験における K0→π0γ崩壊過程の探索を扱っている。この崩壊はローレンツ不変性の観点から禁止されていて、この研究は、その保存則の破れを探求することを目的としている。申請者は、J-PARC の KOTO 実験における 2016 年から2018 年のデータを駆使し、KOTO 実験の卓越した光子検出器を最大限に活用してこの崩壊モードの探索を行い、この崩壊過程の上限値として B<1.7×10-7を確立した。この探索はこれまで行われておらず、この成果は中性 K 中間子における初めての探索として重要であり、そのオリジナリティが際立っている。また、本論文の特筆すべき点は、解析において申請者が独自に取り組み、その過程と結果を論文中に詳細に記述していることである。そして、研究の各段階における申請者の独自の貢献が明確に示されている。以上より、この論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断した。


Christophe Bronner氏 (東京大学 宇宙線研究所)
"Improved constraints on neutrino mixing from the T2K experiment with 3.13×1021 protons on target"
Phys. Rev. D 103, 112008 (2021)

 ニュートリノ物理は高エネルギー素粒子物理学の最前線の一つである。T2K 実験は,J-Parc で発生させたニュートリノビームを Super-Kamiokande において検出する長距離ニュートリノ振動実験である。本論文は T2K 実験の 2018 年 5 月までのデータを解析し、ニュートリノ振動における各種パラメータの最新値を報告している。特に混合角や質量二乗差絶対値に対する最高精度での決定および CP 対称性の破れや質量順序に対する有意性の確認は価値が高く、特筆に値する。論文では緻密で網羅的な解析が分かり易く記述されている。申請者は本解析を日本グループの中心人物として主導した。以上より,本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断した。


2023年10月23日
第 18 回(2024 年)日本物理学会若手奨励賞選考委員会
神田展行、久野良孝、笹尾登、末次祐介、日笠健一、山中卓
事務局
大谷航

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