第 26 回(2024 年度) 高エネルギー物理学奨励賞受賞者を決定しました。


Han Seungho氏 (学位授与機関 : 東京大学, 現所属 : 京都大学)
山田 恭平氏 (学位授与機関 : 東京大学, 現所属 : Princeton University)

の二名を選考しました。
受賞されたお二方に、心よりお祝いを申し上げます。            


受賞論文の講評

Han Seungho氏 (学位授与機関 : 東京大学, 現所属 : 京都大学)
"Measurement of neutrons produced in atmospheric neutrino interactions at Super-Kamiokande"

 スーパーカミオカンデは,2020 年からガドリニウムを水に導入し、tagging 中性子の検出効率が 24%から 94%に大幅に改善したため、今後中性子の検出が重要になる。特に超新星背景ニュートリノの検出感度の改善が期待される。このような状況の下、本論文は、スーパーカミオカンデのこれまでの解析アルゴリズムに機械学習などの新しい手法を導入することによる中性子吸収γ線の検出効率の改良や,これまでの中性子検出効率校正方法の問題点の解決などを行なった。また、中性子発生数に対するシミュレーションとデータの不一致の原因を突き止め、データから物理量への変換の改良を行なった。これらの解析の改良を応用し、大気ニュートリノ反応で生成される中性子を検出し、発生する中性子数が visible energy に比例するという測定を行った。これらの研究は地味ではあるが、素粒子物理だけでなく、宇宙線物理、原子核物理といった広範囲の知見も必要となる高度な研究でもある。また今後のスーパーカミオカンデの物理解析にとって極めて重要性の高い研究である。
 そのため本論文は高エネルギー物理学奨励賞に相応しいと判断した。

山田 恭平氏 (学位授与機関 : 東京大学, 現所属 : Princeton University)
"Advancement of Millimeter-wave Polarization Modulator and Millimeter-wave Polarization Oscillation Search for Ultralight Dark Matter"

 本論文は、次世代のミリ波偏光観測装置 Simons Observatory 小口径望遠鏡のためのミリ波偏波変調器の開発、および現在稼働中の POLARBEAR 実験でのミリ波偏光回転観測による超軽量ダークマター探索について記述している。
 次世代のミリ波偏光観測においては、宇宙初期に生成された原始重力波を起源とする宇宙背景放射の B モード偏光を検出することが最終的な目標となる。それを実現するうえで重要な課題となっている 1/f ノイズを抑制するために、入射光の偏光を 8Hz で変調することで、検出器の応答の違いによって生じる系統的な不定性を低減する。そのために必要となる低温連続回転半波長板式偏光変調器の開発において、装置のデザイン及び構築、偏光変調器単独の試験環境の構築、性能評価、望遠鏡への統合試験、制御装置及びソフトウェア開発、データ解析ソフトウェア開発を主導し、膨大かつ精密な較正を詳細に実施した結果を克明に記述しており、独自性、貢献度は申し分ない。
 また、ダークマター候補として注目されている axion-like particles (ALPs)によって生じる偏光の回転を POLARBEAR 実験において探索することを提案し、データ解析を主導した結果、9.9×10-23 eV から 4.8×10-19 eV の質量領域で、ALP と光子の結合定数に対して天体の偏光観測による最も厳しい上限を与えたことは独創的と言える。
 以上により、本論文は高エネルギー物理学奨励賞に相応しいと判断した。


2024年10月3日
第 26 回(2024 年度)高エネルギー物理学奨励賞選考委員会
伊藤領介、川越清以、末包文彦、竹下徹、田島宏康、増澤美佳、林青司
事務局
有賀智子

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